温泉の力をサイエンスで解く。
温泉微生物研究所
生きた微生物の力を、
人と健康のために。
「温泉善玉菌」を知っていますか?

自然界に生きる微生物の力を、人の健康に活かす試みが広がっています。
その代表が発酵食品です。乳酸菌などの「善玉菌」が腸内環境を正常に整えるとされ、
日本では古くから麹や味噌、糠漬けなどでその力を生活に取り入れてきました。
一方、食以外にも善玉菌の効能を実感できることがわかってきました。
そのひとつが「温泉善玉菌」です。皮膚疾患やリュウマチなど、
永く伝承されてきた温泉の効能は、実は微生物に由来するのでは、
という仮説から調査研究が進められてきました。
別府温泉の源泉には多種多様な温泉善玉菌が生息しています。
なかでも驚くべき効能や効果を持つ新種の善玉菌が発見され、
近年その正体が次々と明らかになっています。
- 基礎研究
- 原料開発
科学は日々進歩し、次々に私たちの体や病気について様々なことが解明されています。しかし、それでも分かっていることはほんの一部に過ぎず、原因が分からない病気、治療法が確立できていない病気も少なくありません。基礎研究を積み重ねることで、まだ解明されていない体の仕組みや病気の原因を見出したり、新しい治療につながったりします。
これまでヒト初代培養細胞を使って、①一次繊毛、②ミトコンドリア、③終末糖化産物(AGEs)に関する新たな知見を見出してきました。
①一次繊毛
一次繊毛は、脊椎動物細胞の表面に1本だけ突出している棒状の構造体です。周辺のシグナル分子を感知するセンサーとして働き、分化や極性獲得などの様々な細胞の活動に関与することが知られています。しかしながら、毛包細胞やヘアサイクルにおける一次繊毛の役割は不明でした。
発毛・育毛の司令塔である毛乳頭細胞において、一次繊毛は細胞間シグナル伝達機構を調節することにより、ヘアサイクルに関与する細胞の増殖や遊走を調節することを見出しました。私たちは、この理論を「一次繊毛理論」または「マイクロセンサー理論」と呼んでいます。

毛乳頭細胞から突出している一次繊毛はFGF-10等の成長因子の発現を制御します。これにより、毛母細胞や頭皮の細胞の細胞機能が高まり、健全な毛成長が促されます。

毛周期の退行期に起こる毛乳頭前駆細胞の遊走において(図では真皮鞘杯への遊走)、一次繊毛はその初期段階で進行方向と逆向きに配向し、遊走とともにその長さや形成率が減少します。一次繊毛のダイナミックな形態変化は毛周期に伴う毛乳頭の大きさや機能の制御に関与すると考えられます。
②ミトコンドリア
ミトコンドリアは細胞活動に必要なエネルギー(ATP)を作っています。細胞の運動や分裂、各種シグナル分子、ストレスに応じて、その形態やATP産生量を調節することが分かっていますが、毛乳頭細胞における役割は不明のままでした。
血小板由来成長因子-AA(PDGF-AA)はヘアサイクルの成長期誘導・維持に重要な役割を担うことが知られています。PDGF-AAは毛乳頭細胞においてATPを効率よく産生する「繊維型ミトコンドリア」を増やすことを見出しました。繊維型ミトコンドリアの増加は、ヘアサイクル中に起こる毛乳頭細胞の遊走に関与していることも分かりました。
別途、炎症ストレスがミトコンドリアの形態・機能を変調させることを発見しました。同様の結果が関節細胞(繊維芽細胞様滑膜細胞)においても得られました。これらの結果は、ミトコンドリアが炎症が関わる脱毛症や関節炎治療の新たなターゲットとなりうることを示唆しています。

A) 遊走細胞では、線維型ミトコンドリアが支配的になり、ATP産生量が増加します。PDGF-AAはこれらをさらに増強し、遊走活性を高めます。B) PDGF-AAは繊維型ミトコンドリアを増加させ、ATP産生が高まります。炎症や酸化等のストレスは丸型ミトコンドリアを増やし、その結果、ATP量が低下し、活性酸素種(ROS)の量が増えます。
③終末糖化産物(AGEs)
AGEsは、糖が脂質・核酸・たんぱく質と非酵素的に反応して最終的に生成される物質です。AGEsは加齢に伴って体内に蓄積され、様々な老化現象に関与することが知られています。しかしながら、脱毛とAGEsの関係は不明なままでした。
私たちは、AGEsが活性酸素(ROS)とNF-κBを介して脱毛因子(一連の炎症性サイトカイン)を誘導し、毛母細胞の増殖活性を低下させることを見出しました。この新しい脱毛・薄毛メカニズムを「糖化誘導型脱毛症」と呼んでいます。

AGEsはROS-NF-κB経路を介して、脱毛に関連する一連の炎症性サイトカインの発現を誘導します。これらの異常に増加したサイトカインが毛母細胞の増殖を抑制します。