【論文掲載】フレグランスジャーナル(FRAGRANCE JOURNAL)2016年12月号
論文タイトル「温泉酵母®を用いた加水分解コラーゲン。エネルギー再生機構の促進による肌の再生」
オリジナルエキス「温泉酵母(加水分解コラーゲン)」の肌再生に関する論文が、フレグランスジャーナル2016年12月号の特集「かゆみのメカニズムと敏感肌製品へのアプローチ」にて掲載されました。
温泉酵母はオーガニックの世界基準であるエコサート社よりナチュラル原料として認証を受けたオリジナルエキスです。安全な有効成分の浸透性を高め、肌トラブルの早期解消を導く画期的な方法として注目されております。
論文掲載内容
1.背景
1-1.はじめに
敏感肌や化粧品による皮膚トラブルに悩む人が増加している。敏感肌と感じる人の割合は年々増加傾向にあり、最近では50%を超えるという報告もある。 敏感肌の主要な原因として、皮膚バリア機能の低下が挙げられ、敏感肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎などの肌が弱い人にも安全で、効果的な商品や原料の開発が望まれている。その一方で、期待される効果が実感できないと訴える消費者もいる。これはおそらく、原料自体は高い効果を示していても、商品化において防腐剤やエタノールなど様々な添加物が配合されることで、原料の効果が発揮できないことや添加物による肌荒れの影響が関係していると考えられる。
我々は、「美人の湯」、「温泉治療」で知られる別府温泉地帯で、温泉ベースの商品開発に取り組みながら新規生理機能の解明も進めている。弊社オリジナル原料である「加水分解コラーゲン」は、温泉酵母の発酵によりマリンコラーゲンを加水分解したもので、スキンケアをはじめ、ヘアケア、ヘルスケアといった幅広い商品開発に応用している。
1-2. コラーゲン
「コラーゲン」は皮膚の細胞外マトリックスを構成する主要なたんぱく質の1種で、ヒトの総タンパク質の約20%を占め、皮膚の弾力やハリに重要な役割を担っている。コラーゲンは加齢とともに減少することが知られているが、皮膚内のコラーゲン量を制御することは困難である。化粧品において、分子量が大きいコラーゲンは角質バリアを通過しにくいため、肌表面に膜をつくり、潤いを与えることを目的に配合されている。これに対し、加水分解処理により低分子化されたコラーゲンは、効率よく角質層に浸透して肌の内部の機能を発揮することが期待される。我々は、今回、発酵技術を用いて調製した加水分解コラーゲン(Hydrolyzed Collagen:以下、HC)の主な機能について報告する。
2.加水分解コラーゲン(HC)の作用
2-1. 再生力・治癒力向上
皮膚の修復能力の指標として、スクラッチアッセイ(創傷治癒アッセイ)により細胞の遊走活性を測定した(図1A)。この手法は、高密度に培養した線維芽細胞の一部に傷をつけて、そのギャップ部分を細胞が移動して埋める能力を評価するものである。(ギャップ部分が完全に細胞で埋められた場合を修復率100%とする)。スクラッチ形成から数時間後の対照の修復率が75%であるのに対して、HC存在下では99%まで向上した(図1B)。経時的解析により、すでに4時間後にはHCによる修復率向上の傾向が見られ、8時間以降では有意な差が認められた(図1C)。このHCによる修復率の向上は、「細胞増殖率」及び「細胞遊走速度」の促進に起因することが判明した(図1D、図1E)。
図1 スクラッチアッセイ
2-2. アンチエイジング作用
「加齢による老化」のメカニズムの1つに、オートファジー活性の低下がある。2016年のノーベル生理学・医学賞(東京工業大学の大隅良典栄誉教授)で脚光を浴びたオートファジ―とは、細胞内の不要物を再利用する機構である。オートファジ―活性は、加齢とともに衰えていくことが知られており、老化や神経変性、炎症性疾患、がんなどとの関係が示唆されている。HCはオートファジー誘導試薬であるラパマイシン(Rapa)と同程度の作用を示すことがわかった(図2)。
図2 オートファジー活性
次に、細胞老化マーカーであるβ-ガラクトシダーゼの活性を指標にアンチエイジング作用を評価した。老化した細胞はβ-ガラクトシダーゼ染色により青色を呈するが、HCにより老化細胞の数が顕著に減少することが判明した(図3)。さらに、HCは線維芽細胞増殖因子であるFGF-10の遺伝子発現を増強することも示された。真皮を形成する線維芽細胞の増殖が促進されることで、ヒアルロン酸やエラスチン、コラーゲンといった保湿や弾力にかかわる因子の増加が期待できる。これらのことから、HCは抗老化作用を持ち合わせ、シミやシワの予防に有益であると示唆された。
図3 老化抑制作用
2-3. 細胞エネルギーの増加
細胞の遊走や分裂、皮膚の再生には多くのエネルギーが必要である。ATP(アデノシン三リン酸)は、主に細胞内のミトコンドリアでつくられるエネルギー源で、生命活動に必須である。HCによる再生力・治癒力向上の作用メカニズムを調べるために、線維芽細胞のATP産生量を検証した。その結果、HCによりATP生産量が上昇することがわかった(図4)。以前、我々は、HCは線維状のミトコンドリアの量を増やすことでATP産生活性を高めることも示した。
図4 HCによる細胞内ATP量の上昇
前述のHCによるオートファジー活性化作用も、再生機構の1つであると考えられる。細胞内の不要物をリサイクルしながらミトコンドリアを活性化させる、というエネルギーのリサイクル機構が促進されると見られる。
2-4. スキンターンオーバーの促進
スキンターンオーバーの周期が乱れるとバリア機能が衰え、肌荒れを起こす、肌の再生力が下がる、メラニン排出機能が低下しシミが増えやすくなるなどの症状が現れる。また、肌の乾燥が進むと、生体防御反応としてスキンターンオーバーの周期が短くなる。その際、表皮角化細胞の脱核が適切に起こらずセラミドの生産量が下がり、ますます乾燥が進むという悪循環に陥ることとなる。アトピー性皮膚炎のような皮膚疾患は加齢とともにセラミドの量は減少し、肌のバリア機能は低下する。HC配合の製品の使用により、スキンターンオーバーを正常化することで、肌荒れの予防に効果的であることが示唆された。
以上より、HCは細胞内のエネルギー産生を促し、オートファジーによるリサイクル機能を高めることで、肌のターンオーバーの正常化、肌再生力の増強、アンチエイジング効果を誘導すると考えられる。
3.ミトコンドリアを制御するケアの提唱
我々は、HCのほかにも、別府温泉で発見した藻を用いて、抗炎症作用、酸化及び糖化ダメージの緩和作用を示す温泉藻類®「RG92」エキスを開発した。
RG92は、肌の再生と代謝を促す「攻め」の原料であるHCとは反対に、炎症・糖化・酸化などの影響を緩和する「守り」の原料である。HCとRG92を目的に応じて使い分けることで、「攻め」と「守り」のバランスをとることがスキンケアによるアンチエイジングには重要だと考える(図5A)。また、ミトコンドリアの観点から、ミトコンドリアを、①いたわり(過剰の活性酸素)をつくらせない、②元気にする(エネルギー生産を促す)OMB(Onsen Microorganism-Based)法により、皮膚の再生とバリア機能の向上を目指すことを推奨している(図5B)。
HC配合の製品を使用したボランティア被験者からは、「肌荒れが改善された」、「赤みがひいた」、「シミが薄くなった」、「アトピー関連症状が和らいだ」といった声が上がった(図5C)。加えて、肌荒れが酷い、アトピー性皮膚炎といった人でも、肌にしみることなく使用できることも確認した。
図5 加水分解コラーゲンを応用したスキンケア
4.おわりに
以上の結果から、HCは効果的な天然原料であることが示されたが、皮膚の改善には時間を要することもある。そこで我々は、経皮吸収効率を上げる目的で、産学連帯により医療向けの導入機器を開発した(PSE規格、図6)。これにより、安定的に短形波微弱電流を表皮に発生させることで有効成分の浸透性を高めることができ、即効性に優れたシワ・タルミ・頭髪へのアプローチが可能になった。すでに、美容皮膚科、美容外科、歯科クリニックを中心に全国で200以上の導入実績がある。より安全で効果のある原料を素早く浸透させることで、肌トラブルの早期解消に貢献できることを期待している。