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第8回世界毛髪研究会議 サラヴィオM-1開発チーム発表 3

3.スフェロイド型毛乳頭細胞による発毛シグナルの増強

毛包再生医療にマイクロセンサーのメス

第8回世界毛髪研究会議(2014年5月14~17日 韓国チェジュ島)において、毛包再生医療のカギを握ると考えられるスフェロイド型毛乳頭細胞ついて学術発表を行いました。

毛乳頭細胞が集まると細胞塊(スフェロイド)を作ります。スフェロイドを皮膚に移植すると、毛包形成が誘導されることから、スフェロイドは毛包再生医療の最先端研究として注目されています。

今回、毛乳頭細胞はスフェロイドになることで一次繊毛を活性化させて、効率の良い細胞間情報伝達を促すことを見出しました。スフェロイドの大きさが高効率な細胞間情報伝達に関与していることも明らかになりました。

さらに、当社独自の温泉原料である加水分解酵母エキスが発毛因子で男性型脱毛症の治療薬開発のターゲットとして脚光を浴びているShhの発現量を顕著に増強させることが分かりました。

毛包再生医療の最先端として注目を浴びているスフェロイド型毛乳頭細胞における一次繊毛の役割の解明、および細胞間情報伝達の高効率化が明確になったことから、毛髪再生医療研究の更なる発展が期待されます。

昨年檀上で最優秀賞を受賞した松島博士。レクチャーにも力が入る。
世界最先端の毛乳頭細胞の繊毛研究として注目が集まる。
ポスターを使いスフェロイド型毛乳頭細胞について詳細な説明をする松島博士。

研究成果の概要

(1)スフェロイド型毛乳頭細胞の一次繊毛の解析に成功

スフェロイド(細胞塊)の中にある毛乳頭細胞の一次繊毛を解析しました。アセチル化チューブリン(繊毛マーカー)の免疫染色による蛍光顕微鏡観察に成功し、スフェロイドでは一次繊毛が伸長することを発見しました(3.7± 1.1μm、単層培養では2.2± 0.7μm)。

(2) スフェロイド形成により一次繊毛が伸長する

スフェロイドのサイズと一次繊毛の長さの関係を調べるため、大きさの異なる(平均40± 7μmから166± 36μm)スフェロイドを準備しました。各々のスフェロイドで一次繊毛の長さを測定したところ、いずれのスフェロイドにおいても一次繊毛の平均長は3μm以上であることがわかりました。これは、スフェロイドの大小に関わらず、スフェロイド形成そのものが一次繊毛の伸長を促していることを示唆しています。

(3) 適度な大きさのスフェロイド型毛乳頭細胞は効率のよい細胞情報伝達を行う

単層培養の毛乳頭細胞およびスフェロイド型毛乳頭細胞から得られた培養上澄み液を用いて線維芽細胞の細胞増殖活性を比較しました。その結果、特に細胞数が少ない場合に、スフェロイド型毛乳頭細胞を用いた方が高い細胞増殖活性を示しました。これは、毛乳頭細胞が適度な大きさのスフェロイドを形成すると、より効率の良い細胞間シグナル伝達を行う事を示しています。

(4) スフェロイド化は毛乳頭細胞の遺伝子発現機構を大きく変化させる

以上の結果から、スフェロイド型毛乳頭細胞では、単層培養の場合とは大きく異なった遺伝子発現機構が働いていると考えられました。そこで、DNAマイクロアレイ法により、単層培養とスフェロイド培養とで網羅的遺伝子解析を行いました。その結果、スフェロイド型毛乳頭細胞では全遺伝子のおよそ20%において、発現が2倍以上、あるいは半減以下に変化していることが判明しました。

(5) 毛乳頭細胞はスフェロイド化により種々の発毛因子の発現を促す

発現が増加した遺伝子群を機能ごとに分類すると、シグナル分子や糖タンパク質など、細胞外に分泌されて機能する種々のタンパク質が含まれていることが分かりました。ヘアサイクルに注目すると成長期の維持に重要なもの(FGF-10、FGF-7、VEGFなど)や、休止期から成長期への移行に必須なもの(WNTファミリー、BMP阻害因子)など、毛髪の成長に直接関わる遺伝子の発現量に大きな変化が認められました。

(6) スフェロイド形成により一次繊毛の形成抑制が解除される

上記、遺伝子の網羅的解析において、一次繊毛の形成・制御に関する遺伝子に注目しました。その結果、一次繊毛の形成を促進する遺伝子群には、目立った発現変動は見られませんでしたが、一次繊毛の形成を阻害する遺伝子群では、著しい発現の低下が明らかになりました。 従って、スフェロイド化に伴う一次繊毛の伸長は、繊毛形成阻害因子の発現量の低下に起因することが明確になりました。

(7) 加水分解酵母エキスがスフェロイド型毛乳頭細胞の発毛促進シグナル分子Shhを増強

これまでに、単層培養の毛乳頭細胞を用いて、当社が開発した加水分解酵母エキスが種々の発毛促進シグナルの産生を促進することが分かっておりました。今回、スフェロイド型毛乳頭細胞の遺伝子発現に対する加水分解酵母エキスの作用を調べました。その結果、加水分解酵母エキスは、一次繊毛に関連の深いシグナル分子であるShhの発現を顕著に増強することがわかりました。Shhは毛周期の休止期から成長期への移行、すなわち発毛促進作用に関与する分子としてAGA治療薬開発のターゲットとして知られています。

(8) スフェロイド型毛乳頭細胞におけるマイクロセンサー理論

以上の結果に基づいて、スフェロイド型毛乳頭細胞では一次繊毛の機能が
向上して、効率の良い細胞間シグナル伝達を行うというモデルを提唱しました。スフェロイド化によってマイクロセンサーの機能が向上した毛乳頭細胞は、細胞増殖シグナルだけでなく、多種多様な機能をもつシグナル分子を増産・分泌します。適度なサイズのスフェロイドではより高効率なシグナル産生・分泌が可能です。これまで毛包再生研究では、比較的大きなスフェロイドを用いることが通例でした。今回得られた知見をもとに、適切なサイズのスフェロイドを選ぶことで細胞間シグナル伝達の高効率化が実現し、毛包再生率の向上につながるものと期待しています。

マイクロセンサー理論のさらなる進化

毛包誘導能を有するスフェロイド型毛乳頭細胞は、毛包再生医療の分野における最先端研究として脚光を浴びています。  今回、スフェロイド型毛乳頭細胞における一次繊毛の調節機構を解明したこで、発毛シグナル因子との関係も見えてきました。今後、スフェロイドの大きさと産生されるシグナル分子の関係を明確にし、発毛調節機構の網羅的理解を目指します。また、当社が提唱する「マイクロセンサー理論」に基づき、毛包や皮膚の再生医療につながる技術の発展、商品開発も進めてまいります。

平成26年5月19日 サラヴィオ中央研究所
上席研究員 松島 一幸

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